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ゴールデンバット

一時期、いろいろな煙草を試したことがありました。そんな中でも印象的なのがゴールデンバットです。

現在販売されている国産煙草の銘柄の中では最古のもので、発売から100年以上経っているそうです。また、一箱140円という価格は国産煙草最安値なんだとか。レトロなパッケージが好きでしたが、現在は警告文が印刷されており、その秀逸なデザインの魅力が半減していると思います。そもそもあの警告文ってどれだけ効果があるのでしょうか?確かにカナダやシンガポールでは10年以上前の時点で既に警告文が印刷されていましたが、あれを読んで煙草をやめようとか思うのでしょうか?煙草のパッケージデザインって結構芸術的なものが多いのに、時代の流れなので仕方ないのかもしれませんがあの警告文で台無しになっているような気がします。

(2010/10/09追記 : この10月1日からの価格改定で200円になりました。今回の大幅な値上げの中にあってもまだ安いです。)

ゴールデンバット
警告文が無粋です

話がそれましたね。

ゴールデンバットは僕にとって初めての両切り煙草でした。普段吸っているラッキーストライクライトと比べるとニコチンは約2倍の1.1mg、タールに至っては3倍の18mg!その割には結構吸えました。昔こっそりくすねて吸った父のエコーは、1本の半分も吸えなかったのとはえらい違いです。

僕が通っていた高校のある街に、土蔵を改造したレトロな内装の喫茶店があり、そこではブリキのフタのガラス瓶に入れて売っていました。

僕の好きな詩人、中原中也の作品にゴールデンバットが出てくるものがあります。その詩がとても印象的で大好きです。紹介しますのでその不思議な世界観を堪能して下さい。


七銭でバットを買つて

七銭でバットを買つて、
一銭でマッチを買つて、
――ウレシイネ、
僕は次の峠を越えるまでに、
バットは一と箱で足りると思つた。

山の中は暗くつて、
顔には蜘蛛の巣が一杯かかつた。
小さな月が出てゐるにはゐたが、
それでも木の繁つた所は暗かつた。

ア、バアバアバアバ、
僕は赤ン坊の時したことを繰返した。
誰も通るものはなかつた。

暫くゆくと自転車を坂の下に落として、
自分一人は草を掴めば上れるが、
自転車を置いとくわけにもいかず
といふ災難者にあつた。

自転車に紐か何か付いてるでせう、
と僕は云つた。
へい、――それには全く気が付きませんでした、

自転車は月の光を浴びながら、
ガタガタといつて引揚げられた。
――いつたい何処までゆきなさる、
――いえ、兄の嫁の危篤を知らせに、
此の下の村まで一寸。

自転車の前の、ランプが灯つた。
――おとなしさうな男である。

僕は煙草に火を点けて、
去りゆく光を眺めてゐた。

アババババ、アババババ、

中原中也 未完詩

如何でしたか?